【第1回 中小企業診断士になったからこそ見える景色】
松尾さんは、キャリアコンサルタントやITコーディネータの資格も併せ持つ、独立中小企業診断士です。20年以上勤めた出版社を退職し、2021年に法政大学大学院の中小企業診断士養成課程(以下、養成課程)に進み、中小企業診断士登録されました。第1回は、2022年に独立してから1年を経た現在(2023年5月時点)の状況や、養成課程の前に数年間、資格試験と向き合った当時の想いをうかがいます。
大変さも、やりがいも大きい。中小企業診断士の1年目
――独立して最初の1年間を振り返っていかがですか?
思ったよりも大変でした…。すぐには仕事が見つからなかったので。この1年は、補助金の申請支援の他、大学院の講義がきっかけで取得したITコーディネータの資格を生かして、中小企業のデジタル化を促進する公的機関の専門家として働いてきました。ただ、先日、その公的機関と5か月の契約が終わりました。当初はその後も更新できると思っていたのですが、今回は先方の体制変更に伴って、当時契約していた人、全員が更新できませんでした。その連絡がきたのは、期限のわずか半月前です。その後、慌てて仕事を探しました。
――大変さがある一方で、よかったこともありますか?
やりがいは感じています。会社員の頃は会社のため、自分のために働いている実感が大きかったのですが、中小企業診断士として働いていると支援先の事業者の方から感謝されることが多いので、支援先の事業者のために働いている、役に立てていると感じます。
様々な部署での経験が今につながる
――会社員の頃は、どのような仕事をされていたのでしょうか?
出版社に21年間勤務して、秘書、営業、管理部門とそれぞれ全く違う仕事を担当しました。大変でしたが、今思えば、中小企業診断士の仕事に生かせる経験だったと感じています。例えば、秘書の時に印象に残っているのが「経営者は孤独だ」という上司の言葉です。経営者は従業員とその家族までも責任を負い、大きな重圧があるが、誰にも相談ができない、と。秘書として経営者の近くにいたことで、そのような経営者の気持ちが理解できるようになりました。営業をしていたので、売ることの難しさもわかります。私は性格的に前に出るタイプではないので、必要と感じていない人に売るというのは、本当に大変でした。
――様々な部門で経験を積む中で、中小企業診断士を目指したきっかけは何だったのでしょうか?
きっかけは、管理部門で財務諸表の作成や予実管理の仕事を担当したことです。当時の私は「B/Sって何? P/Lって何?」という状態でした。ちょうどその時、友達から診断士資格を取得したと聞いたのです。その友達がそれほど勉強しているようには見えなかったので、簡単に取れる資格だと思って、気軽に勉強を始めました。実は大変な資格だったわけですが…。
達成したからこそ見える景色を目指して
――資格取得のために、初めから養成課程を考えたのですか?
いいえ。初めは受験を考えて予備校に通い始めました。1次試験がなかなか受からずに、複数回受験しています。私は知識の下地が全くなかったので、苦労しました。
――試験になかなか受からないとモチベーションが落ちることもあったと思いますが、なぜ勉強を続けることができたのでしょうか?
諦めたら後悔すると思ったからです。今まで、やりたいことがあっても、途中で諦めてしまい後悔することがありました。もう同じ思いはしたくない、そう思いました。また、趣味のランニングの経験が影響しているかもしれません。マラソンは、途中で苦しくなって止めたくなりますが、それを乗り越えて、ゴールした時の達成感がすごいのです。違う景色が見えます。中小企業診断士も同じと考えました。他にも、ランニングを始めて前向きになりましたし、友達もできました。 それらの経験から、「最後までやった。これ以上はできない。」と思うまでやろうと決めました。
山田 美鈴 取材の匠メンバー、中小企業診断士
千葉県出身、東京都在住。マーケティングリサーチ会社を経て、メーカーにて顧客満足度調査の企画・分析、営業支援等に従事。2022年に中小企業診断士試験に合格し、アパレルやサービス業を始めとする中小企業の経営診断に携わる。市場や事業者の実態をわかりやすく伝え、事業活動につなげることモットーに活動中。