【第3回 中高年が挑戦することで可能性が広がる】
過去の記事:第1回、第2回

大野秀敏さんは、中小企業診断士の2次筆記試験において、1次試験終了後の約2ヶ月間の学習でストレート合格を果たした。何か秘策があったのかと聞くと「そんなものはないでしょう」と、あっさりした答えが返ってきた。
2次試験対策は出題者の問いかけを読み解くこと
「コツコツと勉強するしかありません」と大野さんは続けた。
一方で学習内容について言えば、2次試験にあたって過去問はほぼ見なかったのだという。
「1次試験は過去問と似たような問題が出題されることがありますが、2次試験の場合、同じ問題は絶対出ないから」という。
それはわかるが、2次試験対策の王道である過去問対策を避けて試験に臨むというのは少し無謀な気もする。
「過去の合格答案からそのエッセンスを引っ張り出して帰納的に『こう書くと合格するっぽい』みたいなものは、私の価値観とは合わないと感じましたね」と大野さんはいう。
その真意は、ただ合格したいというよりも、実際の診断実務で使える応用力や思考力を備えておきたいということなのだという。では、大野さんが重視した2次試験対策とはどういったものなのだろうか。それは「出題者の問いかけを読み解き、理論に基づく知識をベースにしてもっとも確からしい見解を答えること」なのだという。
中小企業診断士への挑戦が可能性を広げる未来
そんな大野さんにとって中小企業診断士とは、「スーパージェネラリスト」なのだという。
ビジネスパーソンを分類する人材タイプとして、特定の分野を極めたうえで、これを軸にして幅広いジャンルに対するジェネラリスト的な知見を持つ「T型人材」や、さらに複数の専門的な知識を極めた「Π型人材」が昨今重要視されている。つまり、社会経験を積んで、特定の業種や業務を極めた中高年が、中小企業診断士という「スーパージェネラリスト」としての知識を得ることで「T型人材」や「Π型人材」に変わる可能性があるとのだという。
技術革新が顕著な昨今、多様化する社会においてイノベーティブなアイデアが求められているという。今後「T型人材」や「Π型人材」の価値はますます高まるであろう。そのような中、中高年が中小企業診断士の資格に挑戦するということは、これからの社会に必要とされる人材に生まれ変わっていくということかもしれない。
「専門分野だけでなく、多様な価値観や知識があるからこそ、何か新しいものに取り組んだ時や、何かの課題を突き詰めていった時に、ユニークな自分らしさが出せるとのだと思います。これらが集まって社会全体のイノベーションにつながるのです」大学の研究者の言葉は説得力がある。
サラリーマンとしての出口戦略を考える年齢になった時、中小企業診断士に挑戦するということは単なる資格取得にとどまらない、大きく可能性を広げるほどの魅力ある挑戦だと感じた。
大学教員+中小企業診断士が創る未来
大野さんは今のところ中小企業診断士名義での業務は行っていないが、本業である大学教員の仕事では、そのスキル要素や人脈ネットワークが大いに役立っているという。
「大学研究者の中には、研究テーマを事業化したいとか、起業したいというニーズもある。そういった方に対するアドバイスや、中小企業・スタートアップとのマッチング、支援制度の紹介などを行っている」という。
つまりは大学教員という本業の軸を活かすために中小企業診断士の資格が活きているというイメージだそうだ。まさに社会経験で得た専門性にスーパージェネラリストという視野の広さが加わったT型人材の真価を発揮している。大学教員ながら中小企業診断士でもある大野さんの研究や取り組みが、新たな連携やイノベーションにつながり革新的な価値を創出する。そしてその価値や成果が街や社会を変え、我々の生活を豊かにする。そんな未来を期待したい。

岩水 宏至 取材の匠メンバー、中小企業診断士
製薬企業に30年あまり勤務し、営業、マーケティングおよび海外事業にかかわる。出向した海外子会社で経営立て直しを経験したことから、中小企業の経営支援に興味を持つようになる。2023年に中小企業診断士登録し独立開業。現在は中小企業の経営支援、事業承継支援などを行っている。座右の銘は「人間到る処青山有り」。