【第1回 地域を元気にしたい、という心の火】
大手食品メーカーのマーケティング部門で活躍している矢野達也さん。中小企業診断士登録を機に、自分の可能性を社外にも拡げようとしている。今回は矢野さんが携わっている現在の業務内容と、中小企業診断士を目指したきっかけについて迫る。
ヒット商品の仕掛け人
今回インタビューを行う場所に、大きな紙袋を抱えて到着した矢野さん。「よろしくお願いします」とあいさつする声量はそれほど大きくはなく、どちらかというと控えめな印象を受けた。
矢野さんは現在、大手食品メーカーのマーケティング部門に所属し、新規事業や新商品の開発に携わっている。マーケティングのキャリアはすでに20年を数えると言うので、これまでで一番成功した仕事について尋ねてみた。
「そうですね、牛乳・豆乳に次ぐ『第3のミルク』と言われる新商品を立ち上げ定着させたことですかね。それまで市場になかったジャンルなので、商品をお客さんに知ってもらって食習慣に組み込めたのは、いい事例だと思います」
本人は淡々と話すが、その商品は2014年の全国発売以来、健康について意識の高い人達の間で人気を博し、会社の沿革にもその商品名が刻まれているほどだ。静かなたたずまいのその人は、大ヒット商品の仕掛け人だった。
認識と行動の変化を促す醍醐味
新商品の全国発売までには、テストマーケティングを経ながら世にローンチして育成していくという、地道な作業の積み重ねがある。小規模のエリアにおいて特定の小売業と組み、実際に商品を販売してみて顧客の反応を見る。購入した顧客に直接ヒアリングすることもあり、その中で浮き彫りになった課題を丁寧に潰していくのだ。まさにPDCAの連続である。
「最近は原材料が高騰しているので、原価管理も大変だったりしますが、やはり難しいのはお客さんへの伝え方ですね。新しいモノを作っても、店頭に置いただけではお客さんにその価値が伝わらない。だからいろんな周知手段を講じて、お客さんに手に取っていただく。そういう人の認識と行動の変化を促すっていうのは面白くもあるが、やはり簡単ではない。仕事の醍醐味もそこにあると思っています」
話の中でAIDMAのフレームワークがさらりと出てくるあたり、矢野さんが実際に経営理論を駆使しながら仕事に当たってきたことがよくわかる。
中小企業の悩みに触れて
そんな矢野さんが中小企業診断士を目指したのは、中小企業の実態に触れたことがきっかけだ。勤める食品メーカーでは商品を開発・販売する過程において、原料の調達先やOEMでの製造委託先、販促事業者など様々な中小企業が関わっている。
「取引先へ視察に行くと、そこの社長さんから経営上の課題を聞かされたりもします。普段は大企業にいて業務を進めていても、その周りにはいろんな困りごとがあるというのを思い知らされました」
矢野さんは訪問した先での経験をそう振り返った。
また、ある観光地の街おこしをテーマにした社外アカデミーに参加した際は、ちょうどコロナ禍だったこともあって、その地の宿泊業や小売業の窮地を目の当たりにする。
会社の中にいてはわからない、いろいろな社会課題に直面して、何か自分にできることはないかという心の火が、矢野さんの中にともった。今まで仕事で得てきた知見をもっと社会で活かし、地域が元気になるにはどうしたらよいか、と考えた矢野さんがたどり着いた答えが、中小企業診断士の資格だった。コンサルタントを名乗るのは簡単だが、やはり体系的に整理された知識を身につける必要があると彼は考えた。
次回は、中小企業診断士を目指した矢野さんが短期間で合格に至ったコツを探る。
北川 雅也 取材の匠メンバー、中小企業診断士
1965年石川県生まれ、神奈川県在住。大学卒業後、証券会社へ入社。未上場企業のIPO支援に従事する。その後、中小IT企業に転職、経営企画担当として中期経営計画策定、予算管理に取り組む。管理部門担当役員に就任後は、年功序列型人事制度から役割型人事制度への改革、計2件のM&A(企業買収)を担当するなど、経営戦略上の実務に携わる。2024年中小企業診断士合格、登録。東京都中小企業診断士協会三多摩支部所属。