【第１回 ロールモデルを見つけ、目指した中小企業診断士】
「ITを駆使する、今風のスマートなお嬢様」 彼女には、そんなイメージを抱いていた。２年という短い受験期間を経て29歳の若さで試験に合格し、翌年には独立。中小企業診断士協会の催しなどで人前に立つ姿を見かけることも多く、育ちの良さを感じさせる気品のある笑顔が印象的だった。しかし話を聞くうちに、彼女のイメージはどんどん上書きされていくことになる。
得意分野を軸に、中小企業診断士として案件を獲得
現在の仕事の半分はwebマーケティング関連だという。中小企業診断士協会のイベントの事務局などもこなしつつ、今後は中小企業支援機関の専門家派遣やセミナー講師案件も控えており、それらの準備で大忙しだ。Webマーケティングの案件は、会社員時代の副業から継続しているものもあるが、独立後に中小企業診断士の知り合いから「詳しくないので手伝ってほしい」と依頼を受けたり、診断士本人の事業のマーケティングを支援することもある。得意分野を確立し順風満帆に見える彼女のキャリアだが、どのような経緯で診断士資格取得に至ったのだろうか。
メダカのモテ研究で培った探求心
生物が好きだったことから、大学は理学部に進学し遺伝学の研究室で学んだ。
「メダカの研究をしていました。メダカには好みがあって、モテるメダカとモテないメダカがいるんです。薄い色のメダカはモテないという先行研究をもとに、目の細胞を壊して青色が見えないようにしたら交尾の仕方がどう変化するかを調べたり…何かに応用するためというよりは純粋に魚類の趣味趣向を解明していくという、まぁ、お金にはならない研究ですね」
そう彼女は回想する。しかし、どんなメダカがモテるのか、モテさせるためには見る側のメダカにどんな操作をすればよいのか、そんな研究はまさに現在のwebマーケティングに通ずる領域ではなかろうか。小さなメダカという生き物を対象に何度も実験を繰り返すには、かなりの忍耐力と探求心も必要であったに違いない。
社会人３年目で開業届を提出
大学卒業後はITベンチャー企業に就職し、１年後に元々興味のあったwebマーケティングのベンチャー企業へと転職を果たす。その翌年に副業を開始した。
「正社員よりもフリーランスのパートナー社員が多い会社で、そのパートナーさん達から自分の仕事を手伝ってくれないか、と声がかかったんです。そこで開業届を出して案件を受けるようになりました。副業OKの会社でしたし、何か言われることもありませんでしたね」
社会人３年目にして本格的に副業を開始したというのも驚きだが、社内のパートナーとも取引できるとは、社員の挑戦を後押しするベンチャー企業ならではかもしれない。しかし、Web広告が中心のその会社でクライアントに提案をする中で、ホームページが整備されていない、そもそもの商品価格設定が明らかにおかしいなど、web広告だけでは解決できない事案にたびたび遭遇した。
「もうちょっと企業全体を幅広く見てコンサルティングしたい」と、webだけでなくデータなども利用して支援を行うデジタルマーケティングのコンサルティング企業に再度の転職を図った。
診断士資格を取って中小企業特有のモヤモヤを解決したい
その後、中小企業診断士の受験勉強を開始する。IT系の資格も数多くある中、なぜ中小企業診断士を選んだのだろうか。
「１社目の時、若いのにすごく仕事ができる先輩がいて、その方が診断士合格を目指していました。私もすすめられたのですが、その時はテキストを買ったりする金銭的な余裕がなくて。それが２社目で、いわゆるベンチャーや中小企業独特の組織に対するモヤモヤを解決したいと思っていたところ、たまたま入社してきた３つほど年上の女性が中小企業診断士の勉強をしていたんです」 見た目にはいかにも“バリバリ”という感じではなく、一般的な雰囲気の女性だった。自分も頑張れば手が届くかもしれない。少し年上のその同僚に、近い将来の自分を重ねるようになっていった。
青柳 紗千子 取材の匠メンバー、中小企業診断士
群馬県出身。大学卒業後、アパレル業界にて15年間営業として勤務。国内外サプライチェーンのあらゆる現場に立ち会う中、中小企業の抱える様々な経営課題に直面し中小企業診断士を志す。企業退職後、行政の男女共同参画分野での３年間の勤務を経て、中小企業診断士として独立開業。「人権経営」を提唱し、あらゆる人が能力を発揮できる強い組織づくりを支援している。2023年資格登録、東京都中小企業診断士協会城東支部所属。
