【第1回 SEだからこその挑戦理由】

中小企業診断士試験への挑戦開始から、最終合格まで実に約12年間。このように書くと皆さんはどのような人物を思い浮かべるだろうか? 今回から全3回に渡ってご紹介する百田行輝(ももた ゆきてる)さんは、不屈の精神力で苦しい努力を継続していく、といったイメージとは真逆の方である。
「試験勉強は楽しかった。終わってしまったのが少し寂しい」と笑顔で語る、百田さんの人物像と勉強スタイルに迫ってみた。
SEならではの動機で中小企業診断士に挑戦
百田さんは1976年生まれで、これまで2度の転職を経験している。一貫してSEとしての業務を行う一方、3社目となる現在の勤務先では部下の指導も行っているという。ずっとIT分野を歩いてきた彼が中小企業診断士の受験を決めたのは2社目で働いている時だった。
「社内で使うシステム開発のためにいろいろな部署の方とやりとりしていると、たとえばマーケティング部門との会話ではマーケティング用語が出てくるし、経営陣からは戦略的な話が出てきます。そこで他部門の方との会話をもっとスムーズにできるような何かを探していたところ、中小企業診断士の資格を知りました」
社内のシステム開発部門が各部門のニーズをより深く理解してくれれば、会社としても心強いことだろう。中小企業診断士試験で学ぶ知識は、各部門スタッフとの言わば「共通言語」としてコミュニケーションに役立つように百田さんには思えたのである。
ライフイベントが続く中、勉強の優先順位は最下位に
冒頭で述べたように、百田さんは合格まで約12年間を要した。そこまでの長期戦を本人は想定していたのだろうか。
「いや、それが結婚したのと同時期に勉強を始めたので、子供が生まれるまでの数年の間に取ってしまおうというのが最初の目論見でした。短期合格を目指して通学も始めましたが、なかなか思うように勉強時間を取れなかったです」
百田さんが初めて1次試験を受けたのが2008年、それから科目合格を経て初めて2次試験に挑戦したのは2010年のことだ。この年には待望の長女が生まれている。家族のためにも、と2次試験に挑んだ百田さんだったが、この年も、さらに翌2011年の試験も不合格であった。
「計算通りにはいきませんでした」
百田さんはそう振り返るが、小さい子供がいる家庭で自分の勉強ばかりに時間を使えないのは、やむを得ないことだった。会社員としての仕事、家事と育児、そして勉強。当時の百田さんの中では優先順位はどうなっていたのだろうか。
「家の中でも、妻が子供と一緒にお風呂に入ったり寝かしつけをしている間に、私が食後の片づけ、その他の家事をやっていました。勉強はその後に時間があった時だけ何とかやれた、という感じで優先順位としては最後の方でしたね。」
こうして勉強時間を思ったように確保できない中、百田さんは2012年度の1次試験から再スタートになってしまったのである。
「うん、じゃあ頑張ってね」という妻の言葉
この時、もし勉強を続けることに対して家族の反対があれば、中小企業診断士としての今の百田さんはなかったかもしれない。
「妻に来年も勉強したいんだけど、と伝えると、『うん、じゃあ頑張ってね』みたいな返事でした。元々家事もやっていたし、実家が農家なのでそちらの手伝いもしたり、地域の役員とかも満遍なくやっていました。そのうえで余った時間で勉強をしていたので続けさせてもらえたのかな、と思っています。ありがたいことに妻は月に1~2回、土日に子供を連れて実家に遊びに行くことで、私が自宅に1人で勉強に集中できるようにもしてくれました」
こうして百田さんの再挑戦が始まった。ここから2019年の合格までに長男の誕生、そして転職と大きなライフイベントが続く。忙しい日々を送る百田さんだったが、そのモチベーションを支えたのは、意外にも「中小企業診断士の勉強は楽しい」という想いだったのである。

柴山 賢二 取材の匠メンバー、中小企業診断士
1971年愛知県生まれ。分譲住宅販売会社にて広告・広報を担当し、販売戸数・地域シェア拡大に貢献。広告代理店に転職後、約5年の苦闘の末に2022年度に中小企業診断士合格。タキプロ14期ハンドルネーム「しばちん」としてブログを執筆。「中小企業診断士 ゲーム理論」「中小企業診断士 フレームワーク」でGoogle検索した際、だいたいトップで表示されるブログの作者、それが私です。