【第1回 40代後半に、“仕事と勉強”2つの挑戦が始まった】

分譲住宅会社の広報・広告担当として活躍後、現在は広告代理店でライティングを担当する柴山賢二さん(53)。企業の強みを言語化し、訴求力のある広告づくりに定評がある。前職時代のたった1つの出来事が、大きく人生を変えた。中小企業診断士試験の受験を決意させた、その出来事とは。
ライティングに没頭する日々
柴山さんは限られた文字数で、相手の本音を余すことなく表現するのが得意だ。紡ぎ出す文章にはファンが多い。紙面広告やホームページ制作を行う10人ほどの広告代理店で、企画・ライティングを担当している。広告制作は3部署が連携して、受注から納品まで流れるように進む。まず営業担当がクライアントから例えばチラシ制作の仕事を請け負う。その後、デザイナーとライターがヒアリングして方向性を定め、デザイナーはチラシのレイアウトを考える。文章をいれる役目を担うのがライティング担当の仕事だ。
「心がけているのは美辞麗句ではなくて、他所との違いがわかる言葉で表現すること」と話す。
ある企業のホームページリニューアル案件での話だ。ホームページは当たり障りない綺麗な言葉で書かれていたが、会社の強みが伝わってこなかった。じっくりと企業と向かい合い、社長や、従業員と議論を重ねた。社長がボソッと喋った言葉を聞き逃さなかった。「社長、そこが本音のこだわりじゃないですか。ぜひそれを書きましょうよ」。 “他社との違い”を見出した瞬間だった。
「ぴったりと言葉がハマったとき、まだ誰も他の人が解いていないパズルを自分だけが解いたような感覚になるんです」と語る。
たった1つの言葉でお客様の反応も変わる。「何を伝えたいのか」、企業の強みを言語化することにのめりこんだ。今は天職にも思えているライティングに初めて取り組んだのは、今の広告代理店に転職してからだ。それまでは、分譲住宅会社にて広報、広告担当として活躍していた。
自分の力不足を認めた
分譲住宅は購入した土地を区画割りして、1区画ごとに家を建てて販売するビジネスだ。「広報・広告担当として、近隣地域のお客様に企業や、分譲住宅のことをPRしていました。広告主としての立場ですが、『広告が面白いな』と感じたのはこの頃ですね」と当時を振り返った。
仕事に満足していたさなか、人生を変える転機が訪れた。
ある案件について、総務・経理担当のAさんと話しているときだった。「お前、財務のこと何もわかっていないな」。Aさんの歯に衣を着せぬこの発言は、今でも鮮明に覚えている。柴山さんはその時を振り返った。「この時ばかりは怒りを隠しきれませんでした。ただ、意外なことに反論できない『自分の実力』にも苛ついたんです」
一週間経ってもモヤモヤは消えなかった。Aさんを見返すためには何をすればよいのだろうか。心に決めた。力ずくで認めさせることを選んだ。それは暴力ではない、知の『チカラ』で。
人生を考える契機に
財務知識はどのようにして身につければよいのだろうか。何をすべきかわかっていなかったが、調べていくうちに選択肢が2つあることがわかった。簿記か、中小企業診断士だ。
簿記では日々の仕訳なども勉強するため、経理の仕事に就く場合には、相応しい資格だと思った。しかし、自身のゴールは経理のプロではない。「今後のキャリアも見据えて、マネジメント系の知識も習得できる中小企業診断士を選択することにしました」と語る。
これまで分譲住宅会社で充分な実績を残してきた。そろそろスキルアップもしたいと思っていた矢先に訪れたこの出来事。良い機会だと思い、仕事も変えることにした。
「40代はまだチャレンジできる年代ですね。年齢が不利になるとは思っていません」。40代後半に、“仕事と勉強”2つの挑戦が始まった。

中島 正浩 取材の匠メンバー、中小企業診断士
1978年長野県生まれ、下條村在住。大学院生命環境科学研究科を修了後、スタートアップ数社を経て、飯田市内の情報通信業に勤務。新卒以来、一貫してIT畑を歩んできたが、中小企業診断士としての幅を広げるべく、総務・経理担当として修行中。デジタルスキルを強みに、中小企業の課題解決にあたる。2022年中小企業診断士登録、長野県中小企業診断士協会所属。ほかにITストラテジスト、農業経営アドバイザーなど。趣味はカメラ。