【第1回 経営の本質を知りたい 現役マーケターが目指した中小企業診断士の道】

都内のマーケティング会社でシニアコンサルタントとして活躍する栗野将徳さん。顧客企業の支援を通じて「マーケティング施策以前に経営の根本課題がある」と気づき、中小企業診断士の道へ。マーケターとして様々な企業の支援に奔走する栗野さんが、中小企業診断士を目指した原点に迫る。
マーケティングの現場で感じた限界
「お客様の経営課題の本質に迫りたい。そのためには経営全体を俯瞰できる知識が必要だと感じていました」
名古屋大学文学部を卒業後、公務員を経て現在はマーケティング会社のシニアコンサルタントとして活躍する栗野さん。日常的に多くの中小企業の支援に携わる中で、マーケティングの最前線で感じた違和感が中小企業診断士を目指すきっかけとなった。
「同じようなプロダクトを持ち、同じような規模の企業なのに、支援後の成果が大きく分かれるんです。何が違うのかを分析していくと、ヒト、モノ、カネ、情報といった経営資源の課題を抱えているケースが多い。マーケティング施策を打つ前段階で解決すべき経営課題がある企業には、これまでの私の知識だけでは効果的な支援ができないと感じたんです」
その気づきから、中小企業診断士試験の受験を決意した栗野さん。その直前に日商簿記2級を取得したばかりだった。
「たまたま当時ご支援していたクライアント企業が経理周りの商材を扱っていて、会話についていくため簿記の勉強を始めました。2級を取って、この知識をさらに活かせる資格はないかと探したところ、中小企業診断士に出会ったんです」
残り4か月、超特急の1次試験対策
中小企業診断士試験は、一般的に800~1,000時間の勉強が必要と言われる難関資格。栗野さんは試験まで残り4か月という超ハードスケジュールでの挑戦となった。
「簿記2級合格後に中小企業診断士資格を知りました。試験の存在に気付いた時には、残り4か月。最初は7科目全部合格するつもりはなく、4科目程度合格できればいいかなと思っていました。でも勉強を進めるうちに『このペースなら全科目いけるかも』と手応えを感じて、すべての科目に挑戦することに決めました」
フルリモートワークという環境を活かし、毎朝5時に起床して2時間の勉強時間を確保。平日2時間、休日5時間という計画的な積み上げで1次試験合格に必要な知識を着実に積み上げた。
試験直前の駆け込み作戦
特に印象に残っているのは、試験直前の苦闘だ。
「とにかく時間が無さすぎて、中小企業政策に取り掛かることができたのは試験前日でした。最後の悪あがきだと思って、夜7時くらいに一度寝て、夜中2時に起きて朝まで中小企業白書を読み込みました。YouTubeに上がっている一問一答動画なんかも活用しながら一夜漬けで必死に暗記しましたね」
一見無謀とも思えるその作戦は見事成功。中小企業経営・政策の結果はなんと80点という高得点だった。
419点から421点への逆転劇
「1次試験の自己採点をした時、最初の点数は419点だったんです。合格ラインは420点。たった1点足りない……」それを知った時の気持ちを尋ねると、栗野さんは苦笑いを浮かべた。
「本当に途方に暮れました。ここまできて1点差……でも諦めきれず、SNSでいろいろな情報をたくさん検索しました」そして奇跡が起きた。「試験に出題された問題の一つが全員正解(いわゆる没問)となり、最終的に421点になったんです。」たった1点差の逆転合格だった。
栗野さんの表情が明るくなる。「SNSの情報を見ながら、もしかしたら合格できるかもしれないと希望はもっていました。実際に蓋を開けてみたら、合格者一覧に受験番号が掲載されていて、これで2次試験に挑戦できるぞと安堵しました。」

小山 剛史 取材の匠メンバー、中小企業診断士
1996年生まれ、愛知県名古屋市出身。2020年、地元名古屋市に本社を置くWeb系ベンチャー企業に入社。Webコンサルタントとして法人顧客のホームページ制作やWebサイト改善業務に従事するとともに、Web広告運用やSNSマーケティング支援まで幅広く担当。デジタルマーケティング領域のノウハウを蓄積しながら、中小企業のWeb活用による販路拡大や集客力強化に貢献。2025年中小企業診断士登録。愛知県中小企業診断士協会所属。
