【第1回 刺激が拓いた中小企業診断士への道】

ネットワークインフラの設計・構築・ソリューションを提供する企業で社長を務める村上雅一さんは、10か月という短さで中小企業診断士試験をストレート合格した。2024年に診断士登録後、執筆活動を中心に実績を積んでいる。現在の業務や中小企業診断士を目指したきっかけをうかがう中で、村上さんが密かに背中を追いかける人物の存在が浮かびあがってきた。
社長として診る現場
「社長としての経験は、中小企業診断士としてクライアントの診断に臨むときにもきっと役に立つと思い、取り組んでいます」
村上さんの際立った特徴は、中小企業診断士であると同時に、約100人のエンジンニアを抱える中小企業で舵を取る社長である点だ。
「直近は色々な部署との面談やヒアリングを通して、現状の問題点を把握しているところです。一つ一つ順番に、解決するための段取りを組んでいます」
社長に就任してまだ1か月。本格始動の前にやるべきことを見極めるフェーズにいる。
会社を診る中で感じることは、現場では人手がとにかく足りていない。
「中小企業あるあるですが、色々な社員に負荷がかかっていたり、労働時間が長くなったりしている状態です。それに、立場が変わり、経営に関する数値を外部から見て指摘するのと、実際にその数字の中に入るのでは全く違うことを実感しました」
本業がまるで実務従事のように感じられ、毎日勉強になるという。実際に当事者として企業を舵取りする経験をしたからこそ見えた現場の悩みや課題があることが、言葉の端々から伝わってくる。
「あいつにできたなら俺にもできるはずだ」
中小企業診断士を目指した理由に深く関係するのは、元々大学も一緒で、会社でかわいがっていた後輩の存在だ。
「52歳くらいだったある日、定年まで10年もないことにふと気づきました。その時、老後は辛くならないか、寂しくないかと不安がよぎりまして。何か資格でも取ろうと、色々な資格をぼんやりと探していた時期でしたね」
そんな折、後輩の近況が舞い込んでくる。数年前に会社を辞めて今はどうしているのかと心配していたが、彼は地元の京都で独立診断士として活躍していたのだ。
「『おいおい、なんだ、その資格は』と思って中小企業診断士について調べ始めました。国家資格のコンサルタントという触れ込みや、独立しないとしても役に立ちそうという軽い気持ちで、勢いでオンライン講座に申し込みました」
「後輩が活躍していることが純粋にすごく嬉しかった。ただ、やっぱりどこかで『お前ができたのなら俺にもできるはずだ』そんな思いが少しはあったのかもしれませんね」
独立した中小企業診断士で活躍できている人が周りにいなかったこともあり、その姿は新鮮で印象に残った。いまでも一人の人間として、一人の中小企業診断士として素直に尊敬しており、今でも目指さないといけないと語る。
覚悟を決めて全力を注ぐ
勉強の開始は12月。1次試験まで残り8か月という中で、勉強教材はオンライン講座を選んだ。ゴールデンウィークまではオンライン講座に絞って愚直に学習したという。その理由は、会社の福利厚生の割引があり、一番安価だったからだと笑って話す。
「本当に時間がなかったので、他の教材に目移りして余裕もありませんでした。もうこの教材を信じてダメだったら諦めようという気持ちがありました。今となっては一つの教材を貫いたのが結果的に良かったと思っています」
診断士試験の受験生の中には、数ある教材や資格学校から自分に合うものを探すことから苦心してしまう人もいる。覚悟を決めて、選んだ道を正解にするという意志が、良い結果を引きよせたことが伝わってきた。

佐藤 弘直 取材の匠メンバー、中小企業診断士
東京都目黒区在住。2025年に中小企業診断士に登録。目黒中小企業診断士会所属。新卒で入社した化学メーカーで業務プロセス改革・DX推進部門に従事し、主に社内の営業部門へ販売戦略立案・実行を支援する。専門は統計解析、行動経済学。趣味は地元の商店街巡り。
