【第1回 金融機関からの挑戦~引退見据え、中小企業診断士へ~】

金融機関の法人営業担当である黒田智子さんは、日々、中小企業の経営者と向き合っている。中小企業診断士資格の取得に向け、1次試験、2次試験と立ちはだかる壁に、持ち前の明るさとあきらめない気持ちで取り組み、無事合格をつかんだ。第1回は、現在の仕事内容や挑戦に至った背景について詳しくうかがう。
金融機関で中小企業に伴走する日々
黒田さんは、現在勤務する金融機関で、中小企業の経営層を顧客とする法人営業に従事している。日々の業務で関係するのは、売上高10億から30億円程度の規模の会社がほとんどであり、運送業、製造業など業種は多岐にわたる。顧客とも積極的に接点を持つ。定期的に顧客の元に足を運び、何かお困りごとはないですかと問いかけたり、あるいは顧客の方からこういうことはできないかと相談を持ちかけられたりといったアプローチを行う。融資の相談はもちろん、DX推進、新規顧客獲得といった事業全般に関する相談を受ける。融資関連は自身で担当するが、保険や不動産など、法律上、直接取り扱うことができないものは関連会社と連携し、顧客のニーズに合わせ提案を実施している。
彼女は、自身が担当する顧客企業から、「君が来てくれてよかったよ」と言われる瞬間に最もやりがいを感じるという。特に、歴代の担当者がいる中で、そうした言葉をかけられるのは、お客さまのかゆいところに手が届いていることを実感できるからである。経営層の悩みは融資だけに留まらない。幅広い業種と接する中で、それぞれの悩みに寄り添うことは容易ではない。この辺りを改善できるとよいのにと感じることもある。しかし、経営層にはそれぞれの考えや長年の経験があるため、理論上の正解が必ずしもその人にとってのベストではない場合もある。そうした時には、相手の気持ちをくみ取りながら、理論から導かれる解と現実的な落としどころについてバランスを取りながら、最適な道を探っていく。
差し迫る「引退」とキャリアの転機
そんな黒田さんが、中小企業診断士という資格を目指したきっかけは、自身の「引退」を見据えてのことだった。金融機関の定年は業務内容にもよるが50代前半。70歳までの雇用が当たり前になりつつある時代にある中で、50代前半でキャリアの節目を迎えるというのは、人よりも早いと感じていた。定年を迎えた後、残りの人生をどう生きていくか。その問いに向き合う中で、自身の市場価値に対する不安を感じ始めた。
もともと、彼女は法人営業ではなく、ファイナンシャルプランナーとして個人営業に従事していた。当時は営業成績も悪くなく、他社から引き抜きの誘いもあったという。しかし、経験を重ねるうちに自身に求められるものも変化しているように感じた。これまで自身の築いてきたキャリアは、価値がないものであるように思えたのだ。自身の価値を高めるため、金融機関に勤めているというバックグラウンドを活かすには、法人に関する知識と経験が不可欠だと結論付けた。法人の融資を知っているか知らないかで、元金融機関出身者の価値は大きく変わると考えたのである。
中小企業診断士との出会い、挑戦への第一歩
そこで法人営業への異動を希望するが、当時の銀行は今ほど部門間の異動が容易ではなかった。部門を越えて異動するには、客観的にアピールできるもの、履歴書に書ける資格が必要だと考えた。法人営業に関連する資格を探す中で、本屋で偶然手に取ったのが中小企業診断士であった。「面白そうじゃん」。これなら自分でもちゃんとやれる、勉強できるかもしれない。そう思い、診断士資格への挑戦を決意した。

清水 宏 取材の匠メンバー、中小企業診断士
埼玉県在住。大学卒業後、通信事業者においてプロジェクトマネージャー・システムアーキテクトとして、システム開発の業務に従事。2022年技術経営修士(MOT)。2024年中小企業診断士登録。診断士資格取得を機に診断士受験生向け支援活動に取り組む。趣味は、テニス・ランニング・音楽フェス/ライブ参加。
