【大野秀敏さんインタビュー】国立大学の教員がストレート合格 50歳代からのリスキリングに挑戦する意義とは

【大野秀敏さんインタビュー】国立大学の教員がストレート合格 50歳代からのリスキリングに挑戦する意義とは

【第1回 国立大学の教員が中小企業診断士になったワケ】

大野秀敏さんは、大手OA機器メーカーの部長職から50歳の時に国立大学の教員として転職したという異色の経歴の持ち主だ。社会科学系の研究に従事しながら約1年の準備期間で中小企業診断士試験に合格したという。

中高年の挑戦と厳しい実態

人生100年時代といわれる中、50歳代というのは多くの人にとってサラリーマンとしての出口戦略を考える年齢である。将来を国や会社に依存せず自らのキャリアを踏み出していくために資格取得という選択肢は魅力的であるが、一定の苦労や失敗するリスクもある。

令和5年度中小企業診断士2次試験の受験者8,601名のうち、50歳以上は2,627名と、2次試験受験者の約3人に1人を中高年が占めるという*1。人生の後半戦に突入しながらも試験に挑戦する人が多いことに勇気を感じる一方、合格率は40歳代の18%、30歳代の22%に対し、50歳以上は13%と厳しい実態にある。人生100年時代といわれる昨今、学び直しに年齢は関係ないというが、一定のキャリアを積めば社会での責任や時間の制約があることも事実である。そこで50歳代からのリスキリングを成功させた大野さんに、挑戦の理由や合格までの道のりについて話をうかがった。

オープンイノベーションと経営戦略

大野さんは現在、横浜国立大学の特任教員・研究者として、産学・地域連携プロジェクトなどを通じたオープンイノベーションに関する実証研究活動や、大学発となる研究成果の事業化支援などに取り組んでいる。オープンイノベーションとは本来、企業内・外の技術やアイデアを組み合わせることにより、革新的な価値を創出するイノベーション手段のことであるが、大学が行うオープンイノベーションの研究や支援とはどのようなものなのか。

「地域に対する貢献が、大学が取り組むミッションの1つですね。例えば、横浜みなとみらい地区などには研究開発(R&D)を行う企業が集まっているのですが、このような企業を連携するプロジェクトを仕掛けています。R&Dが進んでいるものの、様々な理由で事業化に結びつかず、眠っている優れた技術などを拾い上げ、地域内企業とのマッチングを行うといったプラットフォーム作りを進めています」

大野さんによれば、こういった取り組みは企業の経営戦略そのものだという。

「技術を活かすということは、企業の将来のドメイン拡張や多角化の方向性などに関わってくるので、技術戦略やR&D戦略だけの問題ではありません。その上のレイヤーである経営戦略に基づいた判断が必須です」と語る。

つまりは優れた技術だけをみるのではなく、それを活かす企業の経営戦略も考慮して、仕組み作りを模索しているのである。中小企業診断士である大野さんだからこその取り組みだろう。

マネジメントスタイルの答え合わせ

しかし大学の教員がなぜ中小企業診断士を目指すことになったのか。国立大学とはいえ経営に無頓着というわけにはいかない、しかしそれはアカデミアの仕事ではない。この点について理由は2つあるという。

「私は企業勤めが長く、50歳で大学という世界に飛び込みました。当然ながら周りはアカデミアの世界で生きてきた人ばかりです。このような中で実務出身の自分が、存在価値やアイデンティティーを客観的に示す必要があると考えました」

つまりは大学の中で自分を差別化できるものが欲しかったのだという。もう一点についても訊くと、「これは自己満足なのですが」と前置きしながら、「私が企業勤めの時に実務の中で身に付け発揮してきたマネジメントスタイルが、はたして正しかったのかどうか、中小企業診断士の勉強を通じて答え合わせをしてみたかった」という。

「何年、何十年と部下に指導したり、経営に提案したりしてきました。会社を辞めた今、あれはデタラメじゃなかったということを自分の中で納得したかった」と大野さんは語った。

*1 一般社団法人中小企業診断協会「令和5年度中小企業診断士第2次試験に関する『統計資料』(2024年)







岩水 宏至

岩水 宏至 取材の匠メンバー、中小企業診断士
製薬企業に30年あまり勤務し、営業、マーケティングおよび海外事業にかかわる。出向した海外子会社で経営立て直しを経験したことから、中小企業の経営支援に興味を持つようになる。2023年に中小企業診断士登録し独立開業。現在は中小企業の経営支援、事業承継支援などを行っている。座右の銘は「人間到る処青山有り」。

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