【第1回 製造業での活躍と苦悩】

T・Kさんは、2025年3月に60歳の定年退職を迎える。65歳までの再雇用があるが、独立へと歩み始めている。まじめにコツコツを座右の銘に、まじめに仕事を取り組んできたKさん。中小企業診断士の勉強もその精神で取り組んだ結果、見事な花を咲かせた。そんなKさんの中小企業診断士合格までの道のりと、今後の活躍について取材した。
Kさんの仕事
Kさんは三重県菰野町に妻と2人で住んでおり、在籍従業員が300人以上の会社で、機械設備の部品を製造する専用工場で勤務している。機械製図、CAD、材料力学、焼き入れ、機械加工、表面処理などが得意分野である。また機械、プラント製図の1級と第一種の衛生管理者の資格を持つ、製造業のスペシャリストである。約28年間の機械設計の勤務を経て、現在は生産管理、生産技術に従事している。溶接がしやすい、熱処理がしやすい材質にする、表面に特殊処理を施す等、図面通りの加工ができているのかを確認することが主な仕事である。
Kさんが機械設計から生産管理、生産技術へ異動となったのは、突然の出来事であった。納期遅れ等の改善を期待され、Kさんは異動後の仕事を懸命に取り組んだが、うまくいかないこともあった。機械設計で定年を迎えるものだと思っていたこともあり、異動後の仕事は向いていないのではないかと考えるようになった。
中小企業診断士になりたい
Kさんが中小企業診断士の資格を知ったのは約30年前、その時は「そんな難しい資格があるのか」という印象であった。54歳目前で管理職から専門職へ変更されたのを機に、これからどのような生き方をしていこうか、自分らしく生きられるかを考えた結果、まず中小企業診断士の資格を取得しようと思い立った。また社会や地域に貢献できるような、やりがいのある仕事をしたいと思っていたこともあり、その知識を得るためにも、中小企業診断士になることは必要だと考えた。
Kさんは生産管理を行う中、QCDを意識するようになった。データを確認し、遅延改善させる業務は向いていないと思いながらも好きであった。中小製造業者が苦手とするDXもKさんは積極的に取り組んでいた。また大手自動車メーカーの生産技術の仕様についてアイデアを出したこともあり、ますます中小企業診断士に興味を持つようになった。
1次試験の苦難
Kさんは中小企業診断士の勉強として、2019年に資格の学校の1.5年コースを選択し、2020年の1次試験合格をめざした。Kさんの計画として、1次試験は2019年に経済、経営法務、経営情報システム、中小企業経営・政策の4科目を合格し、2020年に残りの3科目を合格するものであった。結果として、2019年は経済、経営情報システム、中小企業経営・政策が合格であったため、2020年は残り4科目の合格をめざした。しかし2020年の結果は財務と経営法務が不合格であった。特に苦手科目であった財務は44点。これまで平日2時間、土日は6時間から8時間、一途に勉強していたKさんも、さすがに精神的に辛かった。しかしそんなKさんに、ある幸せが訪れた。

上杉 嘉邦 取材の匠メンバー、中小企業診断士
京都府長岡京市在住。鳥取大学工学部物質工学科を卒業後、外資系大手製薬メーカーにて医薬情報担当者として約7年、医薬品開発業務受託機関で臨床開発モニターとして、約15年間勤務する。2023年1月によしくに中小企業診断士事務所を開業。医療系に強い中小企業診断士として中小企業の経営相談、経営改善計画書策定、人事評価制度制定、健康経営支援等、業種業態問わず幅広い分野で活躍する。