【第1回 将来への不安と、友人の奥さんに触発されて】
現勤務先を2024年9月に早期退職し、独立することに決めた上塘裕三(かみともゆうぞう)さん。いずれは地元九州に戻り、中小企業診断士として地元中小企業の経営支援を目論む。第1回では、中小企業診断士を目指したきっかけと、勉強時間をいかに確保したかについてたずねた。
将来に対する不安をなくし、「やりがい」を求めて
「地元九州の中小企業経営を手助けする、町医者になりたい」上塘さんは人懐っこい笑顔を浮かべながらも、熱く語り出した。もともと上塘さんが中小企業診断士の勉強を始めたのは、50歳を過ぎて将来に対する不安を感じ始めたからだった。シニアになっても「やりがい」を感じる仕事を続けたい。上塘さんにとっての「やりがい」とは、人に必要とされることや、人のためになることである。
九州には父母や、これから面倒を見る必要がある家族がいることが、Uターンを考えた一番のきっかけである。ただし、九州に帰っても仕事があるのだろうか、という不安はあった。不安をなくすため、武器となる知識や資格を持ちたかった。結果的に辿り着いたのが、中小企業診断士という資格の取得であった。
「町医者」という言葉に込める思い
上塘さんは、中小企業診断士の資格を取得する前は、MBAの取得を目指していた。MBA取得のため大学で学ぶことを考えたが、そのきっかけを作ったのが会社の同僚でもある、友人の奥さんである。
彼女はもともとSEとして働いていたが、会社を辞めて大学の医学部に通い始め、現在は医者として活躍している。そういったキャリアの描き方に触発されたのと、故郷のために活躍できる場を探すため、大学院MBAコースを2年受験したが、残念な結果に終わった。しかし、そこであきらめずに、別のアプローチで地元への貢献を目指したのである。
「町医者とは、何でも診てくれる、とりあえず先生のところに行って相談してみよう、という気にさせる存在である」と上塘さんは語る。上塘さんの地元は、さほど大きくない企業が多い中で、「ちょっと最近売上が伸びないんだよね」といったようなことを、気兼ねなく相談できる中小企業診断士を目指している。そこには、親しみやすいイメージがあり、まさに笑顔が人懐っこい上塘さんのキャラクターと重なるのである。
隙間時間の有効活用と、メリハリをつけた勉強スタイル
上塘さんは、受験勉強方法に通信教育を選択した。通信教育は、勉強時間を自身でコントロールできることが、メリットである。反面、コントロールが完全に個人の意思に委ねられてしまうことが、デメリットにもなる。後がないという危機感が非常に強かった上塘さんは、そのメリットを活かすため、隙間時間をどう有効活用して平日を過ごすかに知恵を絞った。
具体的には、往復の通勤電車で各30分、帰宅前に喫茶店で1時間、就寝前に30分の勉強を日課とした。仕事で遅くなった時でも、喫茶店が空いている限りは寄って勉強した。また、通勤電車では、インプット中心としたが、テキストや参考資料を眺めるだけだと覚えられない。そこで就寝前の30分で翌日覚えることを小さいメモ用紙に書き、それを翌日の朝と晩の電車の中で繰り返し読み、頭にインプットしたらそのメモ用紙は捨てていた。
一方で、直前期以外の休日は、午前中だけ勉強時間とし、午後からは余暇や家族との時間に充てた。朝6時に起きて、食事後7時半頃から勉強を始め、昼食までの4時間半前後を勉強時間としたのである。その理由を「余暇や家族との時間も作りたかったし、朝から夕方までずっと勉強し続けても逆にモチベーションを保てないと考えた」と上塘さんは語る。このメリハリのつけ方の上手さが、勉強時間の集中力を生んだのかもしれない。
加藤 裕之 取材の匠メンバー、中小企業診断士
石川県金沢市出身、神奈川県横浜市在住。大学卒業後、大手制御機器メーカーに入社。3年半の中国・上海駐在時含め、主に管理会計業務に携わる。社内異動で業務が変わったことをきっかけに、中小企業診断士資格の取得を目指す。退職後は、嘱託職員として独立行政法人中小企業基盤整備機構で、中小企業の海外展開支援に従事。2021年4月に中小企業診断士登録。一般社団法人東京都中小企業診断士協会城南支部所属。