【第2回 機械になりきる~受験期を貫いたGRIT=やり抜く力~】
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証券会社を2社経験し、3社目のIT企業で管理担当の専務にまで上り詰めた北川雅也さん。趣味は長距離ドライブと城めぐり。「営業が苦手だった」元証券マンが一体どうして中小企業診断士試験に1発合格したか、その秘密に迫った。
愛車を駆って錦帯橋へドライブ~GRITの証明~
中小企業診断士の資格と出会う4年前の2018年4月末、北川さんの姿は山口県有数の観光スポット、錦帯橋にあった。東京から840キロ。この距離を、愛車を駆って往復一人で運転したという。朝5時に川崎の自宅を出て、到着したのが夕方5時だった。実に12時間のドライブだ。
「錦帯橋が目的ではなく、実はその奥にある岩国城に行くのが主目的。その数年前に『日本100名城』(日本城郭協会)という本を見て、これはいっちょ回ってみるか」と城めぐりを思い立ったのだという。いまでは、日本100名城・続100名城ともに制覇済みだ。趣味とはいえ、一見無謀に見えるテーマを躊躇もなく自分に課し、淡々とやってのける北川さん。
「好きなことは続けられるって感じですかね」。周囲からはストイックに見えるが、本人はまったく屈託がない。
社会的に成功した人が共通して持つと近年注目される心理特性にGRIT=「やり抜く力」という概念がある。どうやら北川さんは、このGRITの並外れた持ち主のようだ。その力が遺憾なく発揮されたのが、試験勉強だった。
試験勉強も100名城めぐりと同じ要領で
「偶然の出会い」。診断士資格との出会いをそう表現する北川さん。「僕も計画してここに至ったとはまったく思ってなくて、気がついたらここに来ちゃってたという感じなんですよね」と、“自然体”を強調するが、試験勉強に関しては真逆だった。
受験を決意してからの行動はスピーディーだった。予備校通いは自分の性格に向いてないと判断。ネット検索で比較的評判の良かった通信教育の「スタディング」に申し込んだのが2022年の10月。1次試験の10ヶ月前のことである。
「1次試験対策は、7科目についてビデオ講座を見て問題演習をやり、間違えたところは1・2週間後に向こうから『これを解いてください』とプッシュがくる。その繰り返しです」。
当時はコロナ禍で週3日自宅勤務だったことを利用し、通勤に充てていた2時間を勉強時間に充てた。「1日2時間、確実に同じ時間に机に向かう。今日はつらいと思っても、時間が来たら自動的に机に向かう。習慣化が合格の秘訣だと思っています」。
機械になりきれるのが強み?!
時計の針のように正確に毎日決まった時刻に決まった時間机に向かう。機械になりきれるのが北川さんの強みだ。1次試験はそれで突破した。経営情報システムと中小企業政策は60点を割ったが、他の科目でカバーした。
問題は記述形式や計算問題のある2次試験だ。どうしたのか?「2次試験の勉強は1日3時間になりました」。1次試験が終わり、2次試験まで約80日しかない。北川さんがとった作戦は、1科目80分の過去問を毎日2科目、必ず解くことだった。80分×2で160分、採点20分で1日3時間という計算だったという。80日×2科目で160科目。計算上は40年分の過去問ができることになる。「過去問は平成19年からの分を全部やりきりました」。結果は、2次試験も1発合格。超人的GRITぶりは見事というほかない。
「1日3時間の作業なんです。完全に作業。管理部門の人間は同じことの繰り返しが得意なんです。給与計算は毎月、勤怠管理は毎日同じことの繰り返しでしょ」。どこまでもクールなのである。
最終回は、そんな北川さんが目指す診断士像に迫る。

田畑 正 取材の匠メンバー、中小企業診断士
1962年富山県生まれ。東京の民放キー局に定年まで勤務した後、2023年5月、中小企業診断士として登録・独立。テレビ局時代はキャリアの大半を政治記者として活動。政治記者を志した原点が、高度成長期に覚えた衰退する農業への危機感だったことから、次世代の農業経営者の創業・育成に貢献したいと診断士資格を取得。農業分野に強い中小企業診断士として活動している。東京都中小企業診断士協会城南支部、富山県中小企業診断協会に所属。