【第2回 自己を客観視して得た、人生の学び】
過去の記事:第1回

過去にアパレル業界に長年勤め、区役所の勤務経験も持ち、今は独立診断士として開業している青柳さん。中小企業診断士試験の合格を目指すための学習準備は整った。第2回では、1次試験を突破するまでのストーリーを描いてゆく。
土日しか使えない!?過酷な時間との闘い
青柳さんが中小企業診断士の1次試験に挑む過程で直面した最大の課題は、限られた時間の中で勉強時間を捻出することであった。彼女は夫が長時間労働でほとんど家にいないため、平日は事実上ワンオペ育児を行いながら、仕事と受験勉強を両立させなければならなかった。青柳さん自身が語るように、「夫は子供が起きる前に出て、寝た後に帰ってくる」という状況で、彼女は「平日は完全ワンオペ育児」であった。
このような状況下で、彼女は週末を利用して勉強するという選択を余儀なくされた。彼女の「土日にファミレスなどに缶詰めになってやる」という言葉からは、勉強時間の確保にどれほど苦労していたかが伺える。彼女は「家で子供がそばにいると全く勉強がはかどらないので、平日ワンオペでやっている代わりに、土日は夫に子供を任せて私は図書館やファミレスにこもって勉強に完全集中しました。夫も子供も私の受験を応援してくれたので有り難かったです」と語り、科目合格制度を活用した計画的な学習を進めた。
立ちはだかったのは財務会計
青柳さんは1次試験の合格に3回の受験を要した。科目合格制度を活用した戦略もあったが、他にも大きな理由が存在する。彼女が「財務会計は、とりあえず初年度一通り勉強したのですが、全く合格点に届きませんでした」と語ったように、この科目が大きな障害となった。
1年目に受験した4科目のうち、3科目は合格を果たしたが、財務会計は合格点に遠く及ばなかった。「もともと私は、本当にこの資格が取れるとは思っていなかったんです。数学が大の苦手で、財務会計の試験があるから自分には無理だと思っていました」と青柳さんは振り返る。しかし、3科目を合格できたことで「もともと資格取得というより勉強すること自体が目的でしたが、ここまで来たのだから絶対に資格を取ろうと決意しました。そうなると、財務会計を何とかクリアしなければならない」と財務会計の克服を決心した。
2年目の悲劇
財務会計を克服し、診断士資格取得の決意を新たにした青柳さんは、2年目を財務会計の克服に専念すると心に誓い、その学習に取り組んだ。その様子を彼女は「本当にガチガチで、連日の特訓みたいな感じ」と語り、その成果として、大幅に過去問の点数を伸ばすことに成功したという。その時のことを彼女は「高校や大学受験の予備校の広告で、偏差値40からこんなにできました、みたいなのをリアルに体験」と笑顔で語り、2年目の試験1か月前には、過去問で安定的に高得点を取るほどまでに成長したのである。
試験当日を迎え、「猛烈な気概で解いて、思い切りやり切って試験中のことを何も覚えてないくらい」と語る青柳さん。解答が公表されると、彼女はさっそく自己採点を行った。大変な緊張を感じながら1問1問の正否を確認していく。「始めた途端にバツバツバツバツ。あれ?と。しかもなんでこれ間違えたんだろう、というようなミスをしていました」と当時を振り返る。問題の見間違いや思い込み、ケアレスミスが多数あり、自己採点を進める中、だんだんと血の気が引いていくのを感じる。
そうする中でバツを付けた数が11個を超えた瞬間、時間は止まり、頭の中は真っ白になった。11個目のバツを付けた後の問題はすべて正答であったが、結果は56点。正答が1問足りず、合格を勝ち取ることができなかった。皮肉なことに、直前期の数週間でテキストを読み、傾向をつかむために一夜漬けに近い形で臨んだ2日目の科目、経営情報システムも56点で不合格となった。彼女は「一年間死ぬほど頑張ったのが56点で、かたや一夜漬けみたいな状態でやったのも56点で、しかも両方不合格みたいな。なんだろうこれって」と語る。両方合格点に届くよう力を配分すべきだったのに、なぜか財務会計で100点取らなければと必死になり、挙句の果てに冷静さを欠いて空回りしたことを悔いた。
これまでは、必死に何かに取り組むことができることを自身の長所と考えていた。しかし今回のことで、いい意味での適当さや柔軟さも大切なことを学んだという。自己を客観視し、人生にとって大切なことを学んだ彼女。3年目の財務会計では冷静に試験に臨んでしっかりと高得点を獲得し、無事1次試験合格を勝ち取った。

清水 一茂 取材の匠メンバー、中小企業診断士
広島県福山市出身、東京都荒川区在住。SIerのシステム開発部門において、製造業向けシステムの要件定義から設計・開発および検証・導入業務をシステムエンジニア兼プロジェクトマネージャーの立場で従事。現在は独立診断士として、公的機関の窓口相談員や顧問として活動しており、今後はシステムエンジニア・プロジェクトマネージャーとしての業務も拡大する予定。趣味はコミュニティ参加やゲーム、心理学、街の散策など。