【第2回 “できるかも”が変えた、勉強の楽しさ】
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製造業に従事しながら、3年計画で中小企業診断士資格を取得した佐藤弘直さん。第2回では、2次試験の壁を乗り越えたきっかけや、勉強の「楽しさ」に変わっていったプロセスを中心に話を聞いた。
正解が見えない2次試験の不安と葛藤
「書いても、自分の答案がどう評価されるのか、まったくわからなかった」
1次試験を突破し、いざ2次試験に挑んだ佐藤さんが最初にぶつかったのは、手応えのなさだった。マークシートの1次試験とは異なり、記述式の2次試験では“正解”が明確ではなく、努力がどこに結びついているのかが見えにくい。
「進んでる感覚がないんですよね」勉強を続けながらも、自分の理解や成長が測りづらく、不安を抱えていたという。
「2回目落ちたらどうしようって、ずっと思ってました」
1次試験合格の有効期限が迫る中で、焦りが募っていく。モチベーションを保つのが難しい日々だったが、それでも机に向かい続けた。
だが、「解けているか」の実感が持てないことが、2次試験最大の壁だった。
模範解答が公開されていない以上、何が正解なのかを自分で探る必要がある。独学の限界も感じつつ、自分なりの答えを探す手探りの毎日だった。
“解けるかも”の瞬間
転機は、ある解説動画との出会いだった。
「出版社の解説動画だったと思います。平成30年とかの過去問を使って解説してくれていて」
それまで独学で過去問に向き合っていた佐藤さんにとって、“人の考え方”を見られる機会は衝撃だった。
「説明を聞いたとき、自分でも解けるかもって思えたんですよね」
暗闇を手探りで歩くようだった2次試験の世界に、少しだけ輪郭が見え始めた。
書くべきことの方向性が見えて、「やってみたい」という気持ちも湧いてきた。
佐藤さんが“できるかも”と思えたのも、それまで苦しみながら2次試験に向き合い続けた積み重ねがあったからこそだろう。
その変化の感覚は鮮やかだったに違いない。
楽しさがモチベーションに
「それをやってから過去問を解くのも、なんか楽しくなった気がします」
“できるかもしれない”という実感は、学びのモチベーションを大きく変えた。不安だった問題演習も、工夫や視点の変化で、自分に合う学び方に変化していった。
2次試験は「正解」が明文化されない部分も多い。だからこそ、「考え方を学ぶ」という姿勢が鍵になる。
佐藤さんは、答えそのものではなく“考え方の骨格”を捉える意識へと切り替えていった。
この転換が、形式にとらわれない柔軟な対応力を養い、実務にも活きる感覚として根づいていった。
佐藤さんにとっては、それが“楽しさ”につながった。
「楽しくなりましたね」そう語る声には、試験に向き合う意識の変化だけでなく、学ぶこと自体への肯定感がにじんでいた。
心の余白が学びを支えた
受験生活を支えたのは、日常の中に勉強を組み込むというスタンスだった。
「子どもが生まれたのは、2次試験の1週間前くらいだったんです」
大きな出来事があっても、学びのペースを変えなかった。生活の流れを崩さず、試験もその延長線上に置いた。
それが佐藤さんにとって、焦りや不安に飲まれず思考力を発揮するための“整え方”だった。
家族を優先した行動が、結果的に平常心と集中力を支える時間になったのだろう。
一気に詰め込まず、自分のリズムを保ったまま、じっくり考える時間を持つ。その“余白”が、2次試験にはむしろ適していた。
「試験にすべてをかける」より、「日常の中で積み上げる」ことが、結果的に力になっていた。 生活の中で培われた冷静さと視野の広さが、当日、必要な力を自然に引き出してくれたのかもしれない。

奥村 泰宏 取材の匠メンバー、中小企業診断士
グラフィックや商品企画、空間設計など、20年以上にわたって幅広いデザイン実務に携わる。現在は製造業の取締役として、経営の意思決定や組織運営にも深く関わる。中小企業診断士としては、現場と経営のあいだに立ち、課題の本質を見極める支援に取り組む。デザインと経営の両輪を理解する立場から、経営者が自らの想いや強みをかたちにできるよう伴走し、「デザインを使いこなす視点」を伝える活動に力を注いでいる。
