【第2回 孤独と制約を味方にした合格戦略】
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ネットワークインフラの設計・構築・ソリューションを提供する企業で社長を務める村上雅一さんは、10か月という短さで中小企業診断士試験をストレート合格した。2024年に診断士登録後、執筆活動を中心に実績を積んでいる。試験勉強には、持ち前の瞬発力を活かして全力を注いだ。限られた時間の中で試験に挑むうえでの心構えや勉強法、自らを奮い立たせた力の源をたずねた。
「これしかない」前に進むための割り切り
中小企業診断士を目指すにあたり、自身の年齢も考慮して2年で合格できなかったら受験を諦めようと考えていた。
「だからこそ、その間は本気で熱中して試験勉強に取り組めました。仕事でもゾーンに入ると結構な集中力を発揮するタイプと言われます」
診断士試験は受験科目が多く、働きながら勉強をする社会人は限られた時間とリソースの中で最大限の創意工夫が求められる。残り8か月と時間がない中で、重点を置いたのはインプットよりアウトプット。
「記憶するにはアウトプットが大事といいますが、オンライン講座でも講義とミニテストが繰り返されていて、それが自分に合っていました。効率よく学習を進めるうえで非常に役に立ちました」
制約がある中で持てる力を発揮するために知恵を絞り、勉強方法を早々に確立できた。
「診断士試験の受験は、奥さんに伝えていなかったです。そのため、ここまで色々言いましたが、お小遣いの範囲内でどうにかしないといけませんでした。あまり教材を買ったり資格学校に通ったりする余裕がなかったっていうかっこ悪い理由も実はありますよ」
時には「これしかない」と割り切ることが、迷いや選択肢の多さから生まれる停滞を断ち切り、一歩前に進むことにつながる。
孤独の先に目指すゴール
当時は社外取締役としての役割と本業の両方を抱えており、決して時間的な余裕があるわけではない。勉強時間をどうにか捻出する必要があった。
「業務を上手く割り振って、なるべく自身に負荷がかかりすぎないようにしました。あとは、まとまった時間が取れなくても、隙間時間で勉強する習慣をつけました」
「ちょうど単身赴任で一人暮らしをしていて、子供も成人しているので、土日はフルで勉強の時間にあてることができたのも恵まれていました」
しかし、家族にも会社にも内緒で受験していたため、リアルな周囲で支えになる人がいなかった。
「家族と一緒に住んでいたらこんなに勉強できていなかったと思います。ただ、その分、けっこう孤独な戦いでした」
試験合格に向けて自分を奮い立たせ、ペースを維持しつつ学習を継続するのは決して容易ではない。モチベーションが下がる日もあれば、忙しさで机に向かえない日もある。
そんなとき、ふと思い浮かぶのはやはり会社の元後輩の姿だった。当時直接の交流はなかったものの「中小企業診断士として活躍しているというエピソードが励みになったのは間違いない」と語る。診断士を目指すきっかけだけに留まらず、試験勉強という道のりの先で待つゴールがあったことが、10か月でストレート合格を達成できた原動力だ。
戦う科目を見極める
振り返ってみると、1次試験の財務・会計は40点で足切りギリギリだったという。その分、本業に関連する経営情報システムをはじめ、中小企業経営・中小企業政策といった他の科目で点数を伸ばした。
「7科目あれば残りの6科目で、20点くらいならカバーできます。」
診断士試験は7科目で合計420点を得点すれば合格できる。7科目を均等に得点する必要はない。自身の得意・不得意に合わせて科目ごとの勉強時間や目標得点に強弱をつけることも、診断士試験を突破するための立派な戦略だ。

佐藤 弘直 取材の匠メンバー、中小企業診断士
東京都目黒区在住。2025年に中小企業診断士に登録。目黒中小企業診断士会所属。新卒で入社した化学メーカーで業務プロセス改革・DX推進部門に従事し、主に社内の営業部門へ販売戦略立案・実行を支援する。専門は統計解析、行動経済学。趣味は地元の商店街巡り。
