【第3回 活動の中心は中小企業診断士、そしてその先へ】
過去の記事:第1回、第2回
「弁護士が扱うのは過去。未来を向いた仕事がしたい」と中小企業診断士を目指した安部慶彦さん。2021年末に勉強を始め、1次試験、2次試験とストレート合格。弁護士としての仕事をしながら、2023年5月に中小企業診断士登録し、地元埼玉で中小企業診断士の活動をスタートした。第3回目は、中小企業診断士としてのこれからについて聞いた。
埼玉に住む人のQOLを上げる
2023年1月に中小企業診断士試験合格後、さっそく埼玉県中小企業診断士協会に準会員として登録。実務補習を修了し、2023年5月に中小企業診断士登録した。今後も弁護士としては東京を中心に活動しつつも、中小企業診断士の稼働拠点は、住まいのある埼玉を選んだ。
「東京は便利でよいけれども、空が狭い。埼玉に戻ってきて空の広さを感じている」と幼少期から多くの時間を過ごした埼玉への愛着を語った。埼玉は生活の便利さと自然環境とが程よく調和している点が魅力だという。2024年からは『埼玉県よろず支援拠点』のコーディネーターになり、県内各地を回る日々がスタート。中小企業診断士としての活動の幅を広げている。
「埼玉県の南部に住む人の多くは、満員電車に乗って東京まで通勤している。もし、県内で同じ賃金が稼げたら絶対にそのほうがいいはず。埼玉県の経済力を上げ、住む人たちのQOLを向上させることが目標」中小企業診断士として活動するやりがいについて、そう語ってくれた。ロマン派を自認する安部さんの目標は非常に壮大だった。
個の力量があれば肩書は不要
よろず支援拠点に掲載のプロフィールには、弁護士の記載がなかった。その点について、そこがまさに自分の目指すポートフォリオのための戦略ですと説明してくれた。中小企業診断士となった安部さんは、法律に関することだけでなく様々な相談を受けたいと考えている。弁護士を名乗ると、法律相談ばかりになってしまうことを想定し、あえて肩書から外しているのだ。
さらに「どんなお仕事をしていますか?と聞かれて、弁護士ですと答えると、相手に壁を作られてしまう気がしていた」とこれまでの経験から、肩書がないほうが相談しやすいだろうと考えているとも話す。将来的には弁護士資格の返上も考えているという。その理由について、依頼者は弁護士を選ぶとき、事務所の名前ではなく人で選んでいるといい、中小企業診断士も含め「士業で重要なのは最終的には人です。個としての力量があれば肩書はむしろ邪魔になる」と確信を語った。
目の前には大海が広がっている
受験期間を振り返った感想については「試験勉強をしていると、これって役に立つのかなと疑問に思うときがある。でも中小企業診断士試験に向けた勉強は、その後も生きると思う」そして「勉強を始めたことで、世の中に対する解像度は間違いなく上がった」とまとめてくれた。
実際に取得してからは「それまで、実在の中小企業診断士に会ったことがなかった。資格を取って会う人会う人が本当に様々なキャリアで毎回驚いている。中小企業診断士になる前の自分は『井の中の蛙大海を知らず』だった」と語る。
安部さんは法律の専門家だ。しかし、「建設業界出身や商社勤務経験があるなど、企業勤めの人はその部分で強みを伸ばしていけばいい。法律以外に強みがないところが自分の弱み」と自己分析。今後のよろず支援拠点での活動などを通じて、自分の方向性を決めていきたいと今後の抱負を述べた。中小企業診断士として受ける相談の内容は本当に幅が広くて刺激的と話し「大海の入り口に立った。さあこれからという気持ち」と独占業務がないことの裏返しで、可能性が無限に広がっていることを実感している。
人生の最終目標は『仙人』という安部さん。そのこころを「普段は山奥に住んでいて目立たないけれど、世の中の誰も解決できないような困った問題が起きたときに、見事に回答を出してくれる」そのような存在になりたいとの気持ちからだという。 中小企業診断士資格という武器も携え、仙人に向けての長い旅へと出発した安部さん。最後はすべての肩書を捨てさり、知る人ぞ知る存在になることを目指し、今日も県内を駆け巡る。
内田 和典 取材の匠メンバー、中小企業診断士
埼玉県出身。大学卒業後、食品メーカーに入社し、20年余り調味料の開発に携わる。加工食品の原材料から製品開発までを経験。2021年4月からは食品工場で購買業務に従事。2021年に中小企業診断士試験に合格し、2023年10月に登録。東京都中小企業診断士協会城北支部に所属。