【第1回 危機感が生んだ新たな挑戦】

大手鉄鋼・産業機械メーカーでの長年の営業経験を経て、原価管理部門に異動となった佐橋俊介さん。キャリアへの迷いと不安から抜け出すために彼が選んだのは、中小企業診断士の資格取得だった。第1回では、佐橋さんがどのようにしてこの決断に至ったのか、その背景を探る。
異動から始まる新たな挑戦
佐橋さんのキャリアは、鉄鋼・産業機械メーカーの営業職から始まった。大学卒業後、新卒で入社した企業の複数の事業部で営業経験を積み、現在は機械システム部門で活躍している。「営業職が特別向いているなとは思わないんですけどね。長くやっているからそれなりに慣れていると思う」とはにかむが、数年のスパンをかけて受注額が40億円を超える契約を取りまとめることもあるという。
そんな佐橋さんに転機が訪れたのは2018年のことだった。事業部の営業職から工場の原価管理部門への異動が言い渡されたのだ。現在は営業職に戻っているが、当時の異動は他の部門を経験しなければ次のランクに進めないとする会社の人事方針によるもので、避けられないものだった。だが、異動した原価管理部門は新設されたばかり。具体的な仕事が決まっていないような状況だったという。原価管理部門にいた頃のことを伺うと「自分の能力を十分に発揮できるイメージがつかず、私の今後のサラリーマン人生、これで大丈夫なのかと危機感を持ちました」と振り返った。
新たな道を探る、生存能力を高める資格
この危機感が佐橋さんの人生設計を大きく変えるきっかけとなる。仕事に対する不安を感じる中、自己成長の一環として資格取得に目を向けたのだ。「何かしら自分の生存能力を高めるための1つの要素として、中小企業診断士という資格がアンテナに引っかかった」と佐橋さんは語る。
資格取得を自己成長の指標とし、先んじて、簿記2級やビジネス会計検定準1級なども取得していたが、それだけで状況が改善されるとは思えなかった。新設部署の仕事はあまり忙しくなることもなく、勉強時間が十分にとれる環境だったというのも、より難関の資格を目指す後押しになった。そこで佐橋さんは、中小企業診断士の資格取得に本格的に取り組むことを決意した。
勝手にやる試験勉強は家族への配慮と揺るぎない意志の証
3人の幼子と暮らすパパでもある佐橋さんに、中小企業診断士資格の取得を目指すことを家族に告げた際の反応を聞くと「特に向こうも興味を示しませんし、こちらも興味を示してほしいとも思っていなかった」と淡々とした答えが返ってきた。しかし、家族との時間を犠牲にして勉強をしていたということではない。より話を聴いていくと、その言葉の裏には家族への配慮と揺るぎない意志があった。
「家族に極力負担かけないというスタンスでやっていました。負担をかけないでやろうっていうのは、自分で決めていたので、勉強は勝手にやっていたっていう感じですかね」と何ということもないように佐橋さんは言う。そして「ちゃんと家事もやって、洗濯やったりトイレ掃除やったりとかもちゃんとして。家族サービス的なところに関しては、何の影響もなく勉強をやりきったという印象を持っています」と続けて朗らかに笑った。
第2回では、佐橋さんがどのようにして日々の勉強時間を確保し、合格までの道を歩んでいったのか、その具体的な方法に迫る。佐橋さんの朝時間の活用と戦略的な勉強法に注目してほしい。

K.I. 取材の匠メンバー、中小企業診断士
大学卒業後、特許事務所やメーカー知財部に勤務、知財管理やバックオフィス環境整備に従事。知的財産管理やSaaSを活用した業務改善に知見をもつ。ITを生かして働く人も関わる人も楽になる職場環境を実現することが目標。